明日をつくる教室

緩やかな関わりが、地域の未来の鍵になる

福井地区 自治会長

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矢島 誠

取材日 1月 20日

移住と開墾

ニセコ町の南西に位置する福井地区。この福井地区の自治会長を務められている矢島誠さん。ニセコに移り住んで約14年になる。
矢島さんは元々東京の企業に務められたが、海外での仕事が多くその会社員生活のほとんどをシンガポールなどのアジアで過ごされた。日本に戻ると、草木が自由に育ち荒れてしまった庭の手入れを行なった。このことがキッカケでガーデニングにハマった矢島さんは、もっと広く庭を楽しめる北海道に移住したいと思い、縁あってニセコの福井地区に2007年に移住することになる。
まずやったことは、庭の開墾と植栽。自由な時間を使ってガーデニングに専念した。すると趣味の延長線とは思えないほどの素敵な庭が出来上がった。矢島さんの自慢の庭だ。

矢島さんご自慢のお庭①

矢島さんご自慢のお庭②

花や木が綺麗に手入れされていて、「夏は家のデッキに座って過ごす時間が格別だ」と矢島さんは言う。矢島さんの創作意欲は庭づくりに止まらない。額縁からテーブルから棚から何でも自分でつくる。

矢島さんが手作りした額

矢島さんが作ったキッチン棚

矢島さんにかかれば除雪も遊びのうち。鳥が来るように餌場をつくりそこまで続く綺麗な一本道を除雪でつくったり、雪の壁にくぼみをつくりローソクの灯りを置けるようにしたり、除雪は趣味で全く苦ではないそうだ。

庭に来る野鳥

庭、家具、除雪、さらに家の設計も既存のアプリケーションを使って自分でつくったと言うから驚きだ。薪ストーブと木のテイストが非常に温かみを与えてくれる素敵なおうちだ。

多様に暮らせる幸せ

ニセコ町は移住者が多い。広大な自然を背景にスキー・スノーボードなどのウィンタースポーツ、カヌーにフライフィッシング、トレッキングなどの夏のアクティビティなど、様々な楽しみ方がある。そうしたレジャーを求めて移住してくる外国人が多くいる。ここ10年でニセコ町の外国人の人口は約400人程度増加している。全人口が5000人の町に約1割近くの移住者が来る。そのため、この町には新たにくる人を受け入れるという姿勢が根付いている。一方、移住者は町に多様な価値観を運んでくる。その中での交わりが、ニセコ町で多様に暮らせる幸せを提供している。
株式会社ニセコまちが現在計画を進めている「SDGs街区」に関しても話を伺った。「多様なライフスタイルを受け入れられる街区になるといいね。」矢島さんはこのように話す。

「例えば、誰でも自由に使える木工機械が揃ったDIY小屋があると面白い。」

DIYは創造的で、思い思いに自分で作っていく楽しみを日々の暮らしに提供してくれる。矢島さんは自分のDIYの経験からわかっている。農業に関しても同様で、「誰でも自由に使える農機具が揃った自分たちの菜園をつくろうよ。」と話が膨らむ。DIYや野菜作りは近年若者に人気のコンテンツになっている。さらに、高齢者の方々にもこの楽しみを知ってほしい。自分で作ったテーブルに自分で作った野菜が並び、一緒にお隣さんと食卓を囲むというような地域のコミュニケーションに広がっていく。
さらにこのような機能があることで、農業やDIYが得意な人に教えてもらうワークショップを開催するができる。すると、子育て世代からお年寄りまで住人同士が交流するキッカケが生まれてくる。高齢者との関わりを持つことは多くの子育て世代にとっても、短い時間だけ子守りをお願いするなど世代を超えたつながりをつくりだすだろう。

関わりが地域を救う

今回、矢島さんに話を伺ったキッカケになったのは、「助け合い交通」という福井地区特有の取り組みだ。これは矢島さんと地域の皆さんが主体となって進めている。以下のように記事にもなっているが、地域のお年寄りの交通を地域の方々でサポートするというものだ。

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/500246

高齢者になってしまうと、自分で運転ができない。そうすると病院や買い物に行けない。つまりは生きていけない。それではいけないと有志のドライバーさんによる地域の移動支援サービスを、矢島さんは福井地区の皆さんと議論を重ねて作っていき、2019年の5月より運用を開始している。利用者からいただくのは燃料費の実費のみ。矢島さん夫妻はオペレーター業務を行なって、車を出して欲しい人と車を出せる人の調整を行っている。
移住者である矢島さんが、この取り組みをしっかり地域に根付かせていることは大変素晴らしく誰でもできることではない。地域に入ってのきめ細やかなコミュニケーションで信頼関係を築かれたのだろうと推測する。
「次は自分たちが運転をお願いする日がくる」と、助け合い交通でドライバーをしている皆さんは言う。コミュニティ内でお互いに助け合うことで地域課題の解決を行なっているこの取り組みは、自分の未来を見据えつつ、さらに地域内に「ありがとう」という感謝の気持ちを循環させている。この循環によってそれぞれ幸福を得ているのではと、話をお聞きしながら感じた。
地域での関わりは、強いもの弱いものそれぞれあると思うが、心地よいゆるやかな関わりの重要性を矢島さんは教えてくれている。

プロフィール
Photo:牧寛之

福井地区 自治会長

矢島 誠

2007年にニセコに移住
あそぶっくにて勤務も経て、現在は福井地区の自治会長を勤められている。
福井地区で行われている「助け合い交通」は矢島さんご夫婦でオペレーションされている。
趣味はガーデニング、木工細工など。

文責:

牧 寛之

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