明日をつくる教室

「やりたい」こと、「やるべき」こと

ニセコ町地域おこし協力隊

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野田 ひかる

取材日 1月 25日

Photo:牧 寛之

野田ひかるさんは、ニセコ町の地域おこし協力隊として昨年の5月にニセコ町にやってきた。ニセコ町内の約60軒の農家さんたちが運営する農産物の直売所「ニセコビュープラザ」直売会で野田さんは活動している。品物を並べにくる農家さん、野菜を買いにくる地域の方々、観光客の方々ととても密にコミュニケーションできるところがとても楽しいと野田さんは話す。

多くの価値観を体感した海外生活

滋賀県出身の野田さん。子供の頃から机に向かって勉強をすることが苦手だったそうだ。小学校から大学までバドミントンを行うなど、体を動かすことの方が好きだった。大阪の大学に進学し、大学生活を送る中でどこか閉鎖的で多様な価値観が受け入れられにくい日本での生活に違和感を感じ、兼ねてから興味があった海外での生活に意欲が高まっていったという。

「お金がないなら向こうで働けばいい」。そう考え、まずはアメリカのフロリダ州にあるディズニーワールドで働きながら住むことができるプログラムに参加した。英語は片言だったが、そこで英語や労働環境の日本との違いなど多くの学びを得た。特に大きかったのは自分の居場所として居心地が良いことに気づいたことだ。年間70万人もの移民を受け入れているアメリカは多様な価値観が存在する。そのために、さまざまな価値観が受け入れられる。このような多様性をもった社会を知った野田さんは、さらに様々な国を訪れてそこに暮らし、そこで働いた。アラブ首長国連邦、デンマーク、タイ、インドなど、ありとあらゆる国を訪れた。それぞれの国でその文化や価値観の違いを体感した。

どの国が一番良かったか?

多くの友人に「どの国が一番良かったか?」と聞かれるという。ただ、野田さんは「それぞれ何を良いとするか次第ですね」と語る。

・「働く環境が良い国」というのであれば、労働者の権利が強いアメリカ
・「長く住みたい国」ということであれば、政治がクリアなデンマーク
・「文化的な刺激を受ける国」ということであれば、社会的なヒエラルキーが明確にあるアラブ首長国連邦

というように、何を「良し」とするか次第で答えのメニューは様々だ。

特に野田さんの人生観に影響を与えたのはアラブ首長国連邦のドバイに行った経験だ。

暑い時には50℃近くにも及ぶというドバイは3分とまともに屋外を歩けなかった。さらに驚くべきことに、50℃もの気温にも関わらず、スケートリンクやスキー場などがあった。あらゆるものが人工物でできている。このドバイの都市を見て、野田さんは多くの衝撃を受けた。そして、人工物と対局にある自然について興味を持ち始めた。そして、その後に行ったタイのチェンライでみた豊かな緑と農村の風景がその思いを加速させていった。

多様な価値観を受け入れてくれるのがニセコの魅力

海外を転々とする日々によって、野田さんの中で自然や環境に対する価値観が大きく変わっていった。帰国後には自然に触れられる環境で仕事に就こうという意欲が湧いてきた。そこで見つけたのがニセコ町の地域おこし協力隊だったという。

自然が豊かで四季のコントラストが高く、多様な価値観を受け入れてくれるニセコ町の雰囲気に、野田さんは「すごく住みやすい」と感じている。移住者が多く、様々な考え方を持った人が存在するからこそ、互いにリスペクトしあえる環境があり、それが彼女に居心地の良さを与えている。そんな環境だからこそ、野田さんは自然体でいられる。だから、自分のやりたいことを突き詰められる。

カタチにする力

野田さんは自身が働く農産物の直売所「ニセコビュープラザ」で、何か自然環境や地域に対して貢献できる取り組みはないかとアイディアを提案したことがある。その中での1つが、規格外で畑に捨てられるニンジンの活用だ。規格外の農産物にももちろん肥料や農薬、農家さんの労働力など様々な手間とエネルギーとコストがかかっている。小さく商品にならない畑に捨てられるだけのニンジンをみて、「加工してドレッシングにしてみてはどうか。」と考えた。塩とオリーブオイルと蜂蜜、レモン、塩麹でできていて添加物もないため、美味しくて体にも良い。イベントで提案した1つのアイディアであったが、野田さんの行動力は何かをカタチにする力があると感じさせる。

やりたいことからやるべきことへ

自分の将来に関して、「まだモヤモヤしているんですけどね」と言いながらも、自身のやりたいことを活発にカタチにしてきた野田さん。夏場にはキャンプ生活を行ったり、中古車を自らDIYしたり、古民家をリノベーションしたりとアクティブにやりたいことを行ってきた。

「今後は、公私共に海外で得たものと、日本人としてできることを踏まえて、自分なりのかたちで地域に貢献していきたい」。野田さんは自らの実践と体験をもとに、日々模索しながらアイディアをカタチにし、社会に提案していきたいと考えている。

配属先の仕事では、自分の思いや考えを提案することも増えてきた。ただ、その中で自分の意見が受け入れられないこともある。そのような経験を通して野田さんは、「人を巻き込んで継続的な大きなアクションを起こすには、自分だけではなくまだ興味が薄い人々にも働きかけて影響を与えないといけない」と考えるようになった。そしてそのためには、他人を理解するということを考える必要がある。

他人を理解することで、ニーズや課題が見えてくる。このニーズや課題に答えてあげることが人を動かし、人を巻き込むことにつながる。自分自身の「やりたい」ことを地域のみんなで「やるべき」ことにすることが重要だ。

自然に寄り添った生活を地域のみんながそうあるべきだと思ってもらうことで、自然に触れながら暮らせる社会に繋がると感じた。自然豊かなチェンライの農村の風景を思い出しながら、野田さんのアクションは続いていくだろう。

プロフィール
Photo:牧 寛之

ニセコ町地域おこし協力隊

野田 ひかる

滋賀県出身。2020年5月にニセコ町地域おこし協力隊に着任。ニセコビュープラザ直売会協同組合の配属のもと活動中。海外生活を経験する中で自然や環境に対する価値観が大きく変わり、自然豊かで多様な価値観を受け入れてくれるニセコ町への移住を決意。公私共にさまざまなことに挑戦し、自身の興味を深掘りしながら、地域での暮らしや社会への貢献の仕方を自分なりに模索している。

文責:

牧 寛之

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