明日をつくる教室

住んでいるからこそ感じられるもの

Forest Walker

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野上 道大

取材日 9月 1日

Photo:佐々木 綾香

今日は、ニセコ町在住の大工さんの野上さんにお話しを伺った。
野上さんには(株)ニセコまちの新事務所の断熱改修工事にも携わってもらっている。
野上さんは、大阪市城東区、出身。スノーボードに熱中して、ニセコに移住し、数々の経験を重ねるなかで、大工の仕事をしながら自然の中で丁寧に暮らすというライフスタイルにたどり着いた。

【料理人スノーボーダー時代】

野上さんは、21歳まで地元の大阪で過ごした。中学校の時から料理に興味があったこともあって、専門学校に通って調理師の資格をとった。その後は、和食関係の職場で働くことが多かった。専門学校に通っていた当時のことを振り返って「おいしいものが食べたかったし、和食の世界って華やかでかっこいいと思った」と語る。

そんななか、中学校2年生から始めたスノーボードにはまることになった。
初めて、車の免許を取った日には、父親に内緒でこっそり自動車を借りてスキー場に向かったそうだ。
当時、飲食店で朝10時から夜11時まで働いて、そのあと、徹夜でスキー場まで行って、翌日丸一日滑るという生活を送っていた。かなり、しんどくて、運転中眠たくて、命の危険を感じたこともあったけど、やめられなかった。それくらい楽しかった。

【人生を変えるため北海道へ、ニセコへ】

大阪に住んでいた時は、よく岐阜県のスキー場に通っていたが、ある日突然渋滞がとても嫌になった。そこで、人生観を変えたいと思っていたこともあって、「それなら北海道だ!!!」と思い立って(大阪では人生観を変えるなら北海道と思っている人が多いらしい…)、リゾート施設のバイトでニセコに行くことにした。
はじめて冬の期間だけニセコのペンションで働くことになったのは21歳のときだ。調理師の資格を持っていたことに加えて、飲食業の経験も豊富だったため、ペンションのオーナーから重宝されることになる。
そんな順風満帆な生活を送りはじめたばかりで、野上さんに悪夢が訪れる。当時のヒラフスキー場は、今ほどゲレンデが混んでいなかったが、その日は年末でたまたま混んでいて、混雑を避けたことでコース外へ。木に衝突し、大腿骨骨折。近隣の病院に入院することになったが、なんと全治120日。ニセコに来てまだ2週間、ヒラフスキー場内の花園エリアも滑っていなかった。

入院生活を送るなか、外にはしんしんと積もる雪、、、、、出たい!滑りたい!と、お医者さんに頼み込んで、なんとか60日後には特別に退院させてもらえることになった。そして、念願の花園エリアも滑ることができた。

このように、波乱含みで北海道ニセコでの生活がスタートしたが、その後のニセコでの生活はかなり楽しかった。居酒屋も楽しくて、ペンションから居酒屋に冬の仕事を変えた。従業員への福利厚生として、リフト券の支援があったことも嬉しかった。
グリーンシーズンは利尻に行って昆布のアルバイトをしたり、近隣の農家さんで農業のアルバイトなど、色んな経験をした。農家のアルバイトでは、ニセコの夏の景観の良さも気に入った。

【生活力を高める過程で大工業へ】

そのように毎日を楽しくニセコで暮らしているなか、27歳の時に奥様と知り合った。そして、奥様が住んでいる家で一緒に暮らすようになった。そこで暮らすうちに、家を直したりしなければいけないことも出てきて、大工仕事に興味を持つようになった。それが、功を奏して今の仕事につながることに。建設会社で7年くらい修行させてもらい、現在では大工として独立することになった。
独立した理由は、仕事だけじゃなくて、庭の手入れや子育てなど、丁寧に生活するための時間をもっと取りたいと考えたためだ。
「最後までがんばって、お金だけたまって死ぬっていうのもどうかと思う。背伸びをするともっと働かなければいけない。多くを望まなければ、本当はもっと働かなくていいんじゃないかと思う。」と野上さんは語る。幸せの本質はお金ではないと悟っている野上さんの表情は朗らかだ。

【自然のなかでの丁寧な暮らし】

このように丁寧にニセコで生活をしている野上さん。ニセコに住んでいるからこそわかる良さがあると語る。
「太陽が沈んでいくとき、夕日にそまるアンヌプリのシルエットもかっこいいし、住んでいるからこそ、四季の移ろいも感じられる。自然は、春夏秋冬、朝昼晩表情が違う。また、食べるものも旬が違う。」「自然と触れ合っているなかで、こころが休まる」。こういったことは、丁寧に暮らしているからこそ感じられるものだ。
また、自然との触れ合いの中で自然の悲鳴にも気付くことがある。「家の裏を流れる川がびっくりするくらい臭かったりする。これは、上流で古くから使われている単独浄化槽の排水の影響ではないかと思っている。」一見すると豊かに見える環境ではあるが、そんな自然の中でも、人間が侵す悪い影響を感じることがあるそうだ。

【将来やりたいこと】

野上さんは、飲食業のような接客業より、大工職人の仕事が性に合っていると思っている。それから、今は大工の仕事が忙しいけど、将来的には、木こりにもなりたいと思っている。
合同会社Hikobayuの澤田さんがやっている自伐型林業に興味がある。大工仕事と自伐型林業の仕事を半分半分で生活できたらいいなと思っている。
このように自分が思い描く道を追求していくことは楽しい。これからも自分を磨いていきたいと語る野上さんの笑顔は素敵だった。

【編集後記】

野上さんへの取材を通して、自分のまわりにあるものに目を向けて、丁寧に生活すること、その丁寧さから得られる暮らしの豊かさは、お金では買えないものだと思いました。

プロフィール
Photo:佐々木 綾香

Forest Walker

野上 道大

大阪市城東区出身。2020年、大工として独立。Forest Walkerという屋号で活動を行っている。

文責:

宮坂 侑樹

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