明日をつくる教室

ニセコ高校だから学べたこと ー 地域の魅力と人のやさしさ ー

ニセコ高校 観光リゾートコース

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青木 未歩(右)・齊藤 野の花(左)

取材日 10月 14日

Photo:佐々木 綾香

ニセコ町にあるニセコ高校には、アグリフードコースとグローバル観光コースがある。今回取材した青木未歩(あおき みほ)さんと齊藤野の花(さいとう ののか)さんは、同校の観光リゾートコース(現グローバル観光コース)に所属する4年生だ(2021年10月当時)。ふたりは、授業の一環で2021年10月2日にワイン(ヴィンヤード)をテーマとしたフットパスツアーを企画・開催した。今回は、ツアー企画から開催まで、半年以上に渡るプロジェクトを取材した。

フットパスツアーを無事に終えた際のふたり(左:青木さん、右:齊藤さん)

ふたりはなぜニセコ高校に?

青木さんと齊藤さんは、ニセコ町外の出身。青木さんは幕別町の出身。齊藤さんは岐阜県の出身。中学までを岐阜で過ごし、両親の仕事の関係で、家族で北海道に移住した。

青木さんがニセコ高校に進学するきっかけとなったのは、両親からの紹介だった。観光リゾートコースの研修プログラムで海外(マレーシア)に行く機会があるということに惹かれた。また、中学生の時に人と接するのが苦手だった時期があったことから、このコースで学ぶ中で、人と接する機会が増え、色々な人とコミュニケーションを取れるようになるかもしれないという期待もあった。

齊藤さんは、家族と一緒に道内の高校をいくつか見学したが、青木さんと同様に、ニセコ高校がマレーシアでの研修プログラムを提供していることに魅力を感じ、同校への進学を決めた。また、高校で寮生活を体験してみたいという思いもあった。

ニセコ高校の外観

ニセコワイナリーでの実習

観光リゾートコースの教育カリキュラムは基本的には3年制だが、希望する生徒は在学期間を1年延ばし、4年間在学することできる。青木さんと齊藤さんがニセコ高校に進学する大きなきっかけとなったマレーシアでの研修プログラムは、4年目のカリキュラムに組み込まれたプログラムだ。マレーシアのリゾートホテルでのインターンを通じて、ホスピタリティの現場での仕事を体験できる研修内容となっている。しかし、昨年は新型コロナウイルス感染拡大の影響により、中止となってしまった。そのかわりに、町内のいくつかの事業者が、生徒に研修の機会を提供してくれることになった。ふたりは、ニセコ町にあるニセコワイナリーの実習に参加することを決めた。

実習は約2ヶ月間に渡って行われた。主にワイン用ブドウの栽培管理やワイナリーでのワイン製造の仕事を行いながら、ブドウの品種や、ニセコワイナリー以外の北海道のワイナリーについて調べたり、マーケティングについても学んだ。

ニセコワイナリーで有機栽培されているワイン用ブドウ

「歩こうニセコ ワイン(ヴィンヤード)× フットパスツアー」

今回ふたりが開催した「歩こうニセコ ワイン(ヴィンヤード)× フットパスツアー」は、ニセコワイナリーでの実習を終えたふたりが、実際に実習の中で経験したことやそこでの学びを踏まえ、地域のさらなる魅力アップに繋げる「観光コンテンツ」として企画したものだ。

ツアーの具体的な目的は主に4つ。①ニセコならではの様々な地域資源を結び、魅力アップに繋げる、②オーガニックスパークリングワインの魅力を感じてもらう、③インバウンド対応に向けての観光コンテンツをつくる、④ニセコの新たなフットパスコースを提案する、ことだ。またSDGs(持続可能な開発目標)に寄与するようなプログラムとすることも意識している。

ふたりが製作したツアーのフライヤー(デザインは主に齊藤さんが担当)

このツアーは、青木さんや齊藤さん、地域の生産者による解説のもと、ニセコの魅力を堪能できるものとなっていた。ニセコワイナリーのヴィンヤード(ワイン用ブドウの畑)や地域のフットパスコースを歩きながら景色や自然を満喫するとともに、ツアー途中で出題されるクイズに回答したり、ヴィンヤードの仕事を体験するといった様々なプログラムが用意されていた。また、近藤地区(やニセコ町)で生産された食材を使った食事を、生産者と直接交流しながら楽しむこともできる内容となっていた。

「見晴らしヴィンヤード」にてツアー参加者で記念撮影

ワインセラーでツアー参加者に解説をする齊藤さん

ブドウの栽培管理の仕事を参加者が実際に体験

ニセコワイナリーの生産者・醸造家である本間泰則氏

近藤地区やニセコ町の食材がたっぷり詰まったランチボックス

ツアー当日の様子や、開催に向けた準備の様子については、ニセコ町地域おこし協力隊のウェブサイトやSNSページで紹介している。以下のブログ記事・投稿を参照いただきたい。

★ 実際のツアー開催の様子や体験した感想などをまとめたブログ(ニセコ町地域おこし協力隊ウェブサイト)

★ ツアーで提供するランチボックスの試作・試食会の様子(ニセコ町地域おこし協力隊Facebook)

ニセコ町の魅力と人のやさしさを実感

ふたりが企画したツアーの報告会が、ニセコ高校で行われた。青木さんと齊藤さんに改めて感想などをうかがった。

校内生徒向けに行われたツアー報告会の様子

青木さんは「達成感でいっぱい。64人もの方々がツアーの企画に協力してくれた。色んな人のたくさんの優しさを感じて、感動で泣きそうになった」と当時の気持ちを振り返ってくれた。齊藤さんは「扱う食材の良さを知るために、色々なものを自分たちで実食した。毎回同じものを食べているのに、食べるたびに『美味しい!』と感動した。ツアーを企画する自分たちも食べてばっかりで、美味しくて楽しいツアーだった(笑)」と嬉しそうに笑う。

ニセコチセガーデンで行われたランチボックス試作・試食会

どれも彩り豊かで美しい

試作したランチボックスを持つ青木さん

齊藤さんは、近藤地区はほとんど行ったことがなかったが、今回のツアー企画をきっかけに足を運ぶようになり、近藤地区やニセコ町の魅力に改めて気づくことができたそうだ。「ニセコ町にはこんなに美味しい食べ物がたくさんあるんだ!ということに、約3年ニセコ町に住んでいて気づかなかった」と、その時の驚きを語る。今回のプロジェクトがきっかけで、ニセコ町にどんな美味しいものがあるのかを調べるようになり、休日には自ら歩いて近藤地区にでかけていくこともあったそうだ。

今回改めて気づいたニセコ町の食材の魅力を語る齊藤さん

「人のやさしさを実感した」という青木さんは、近藤地区の生産者や事業者、ニセコ町の地域おこし協力隊、そして側でサポートしてくれたニセコ高校の先生など、「色々な人に助けられながらツアーを形にしていくことができた」と、感謝の気持ちを語る。ツアー企画に協力してくれた地域おこし協力隊から、交流の輪が広がり、フットパスツアーの組み立て方を学んだり、写真撮影の方法やチラシのデザインの仕方についてアドバイスをもらうなど、知識や技術を伝授してもらったそうだ。

お世話になった人たちへの感謝の気持ちを語る青木さん

1つのプロジェクトをやり遂げて

こうしたツアーの企画・運営をとおして、さまざまな人とコミュニケーションを取る難しさを感じるとともに、多くの学びを得た。「とにかく色々な方に連絡して、協力していただいて、たくさんコミュニケーションを取った。仕事としてのメールをどのような文面で送るべきか試行錯誤しながら考えたり、自分の要望を伝える際に、どのように伝えたら相手に失礼がないかなど、すごく悩んだ」と振り返る。そうした苦労を経験しながらも「いいものをつくっている人たちの情報をしっかり発信しなきゃ、という気持ちが強く芽生えていった」と、熱い気持ちを抱いたことも語ってくれた。

齊藤さんは、人と一緒に何かに取り組むことが得意だと思っていなかったそうだ。「人と話すのは好きだけど、人に何かを頼んだりするのが苦手だった。ツアーの準備の中で、誰かに何かを頼んだり、そういう繋がりって大事だなと感じた」と話す。青木さんは、「何か物事に取り組むとき、自分は一つのことにフォーカスして完璧にやろうと思いがちだけど、今回はマルチタスクで作業に取り組まなければいけなかった。さまざまな仕事を同時に容量よくこなすという能力が、多少は身についたんじゃないかな」と微笑む。

ツアー中、ヴィンヤードの前でランチのメニューを説明する齊藤さん(左)と青木さん(右)

また、「学校だと、先生たちがやるべきことを全部準備してくれて、提示されたものをそのままこなしていけば成績を取れるけど、今回は全部自分たちで一から考えないといけなかった。クリエイトするというのはこういうことなんだと、とても勉強になった」と話すふたり。何もない状態から、自分たちで一から物事を作り上げる大変さを実感しつつも、自分たちで内容を柔軟に組み立てられる自由度の高さ、そしてそこに伴う責任も感じた。

今回のツアーの中で、協力者やツアーの参加者など、さまざまなバックグラウンドを持つ人たちに出会えた。ツアーの中でふたりは進行役を務めながらも、色々な人と話をすることができ、さまざまな人の生き方や個性があるということを知った。その中で、自分自身の進路についても考える良い機会になったそうだ。

ふたりだからこそ!

青木さんは、自分自身のことを「完璧主義で細かいところが気になってしまう」性格だと分析している。「私は未歩とは逆で大雑把な性格だから、きっとお互いを補い合えたと思う」と齊藤さん。「準備期間の最後の方では、お互いにどんなことをやってほしいかが自然と分かるようになっていた。まさしく『阿吽の呼吸』って感じて、連携できていた」と齊藤さん。「野の花と一緒にツアーをつくることができて良かった」と青木さん。お互い顔を見合わせて、納得したようにニッコリと笑う。

ふたりが醸し出す自然であたたかい空気感にインタビュアーもほっこり

ふたりが話す姿を見ていると、彼女たちが高校生だということをついつい忘れてしまう。何か問いかけをすると、それぞれが自分の考えや感じたことを、率直且つ明確に話してくれる。そしてそこには、ツアーに関わったさまざまな人への尊敬の気持ちや配慮も感じられる。

そんなふたりは、高校卒業後に進む道をすでに決めているとのこと。学生時代にこうしたツアーの企画・運営を経験した青木さんと齊藤さんが、これからどのような人生を歩んでいくのか、将来が大変楽しみである。

ふたりの今後のご活躍を心から応援しています!
プロフィール
Photo:佐々木 綾香

ニセコ高校 観光リゾートコース

青木 未歩(右)・齊藤 野の花(左)

青木さんは北海道幕別町出身。齊藤さんは岐阜県出身。ニセコ高校の観光リゾートコースに通う4年生(2022年3月に同校を卒業)。ニセコワイナリーでの実習から得た経験や学びを踏まえ、地域のさらなる魅力アップに繋げる観光コンテンツとして、「歩こうニセコ ワイン(ヴィンヤード)× フットパスツアー」を企画。学校の枠を越え、地域のさまざま人たちと連携しながら、ニセコ町の新しい魅力を感じられるプログラムを形にし提案した。

文責:

佐々木 綾香

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