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ついに登場!ニセコまちの旗振り役 ~ まちづくりの今と未来、その思いを語る ~

(株)ニセコまち 取締役 /(一社)クラブヴォーバン 代表

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村上 敦

取材日 9月 8日

Photo:佐々木 綾香

環境ジャーナリストとしてドイツと日本を繋ぎ、日本国内で「持続可能な低炭素型のまちづくり」を目指すクラブヴォーバンの代表を担う、ニセコまちのメンバーの村上敦(むらかみ あつし)さん。今回インタビューを通して、村上さんの半生や、これまでの仕事の中で得た気づき、ニセコまちの中心メンバーとして関わるようになるまでの経緯や、現在ニセコ町で進めているまちづくりへの思いなどをうかがいました。

土木とともに過ごした青年時代

村上さんの出身は岐阜県の高山市。祖父と父の職業が建設業だったこともあり、幼少期から土木や建設に興味があったといいます。毎週日曜日に父が遊び場として連れて行ってくれたのは工事現場でした。

中学卒業後、地元を離れ、寮生活で岐阜高専の土木工学科に進学。高専を卒業した後は、東京の大手建設会社に就職しました。東京湾の埋立地や人工島を作っていく日々の中、偶然ドイツの取り組みを書籍で知ることになります。

ドイツの取り組みに魅せられて

「東京湾の埋立地は廃棄物や浚渫土(ヘドロ)を入れて作られるんですが、日本では長期管理が不十分で、どの場所にどんな廃棄物が入っているのかは10年経過するとわからなくなってしまうんです。対してドイツでは、何の廃棄物がどこに入っているかをデータ化して一元管理する取り組みを行っていると書籍で知りました。」

例えばコンクリート構造物の寿命が尽きた100年後。その中に重金属や貴重な資源が入っていて、なにかの技術で掘り起こして資源としてリサイクルできるならー。埋立地という「負の遺産」を残してしまった事実は変わりませんが、ドイツでは次の世代のために、今の世代で最低限やらなければならない責任を果たそうとしていると知りました。

「ドイツ人ってすごい!なんでそんな発想になるんだろう?」

たまたま読んだ本に考えさせられ、さらに「いつかまた海外に行きたい」という高専時代に体験したオーストラリアでのワーキングホリデーの記憶が重なり、持続可能な社会のためになにかできたら・・・と考えるようになります。こうして村上さんはドイツへ渡ることとなりました。 

ドイツでの学びと経験を日本へ

26年前にドイツへ渡ってからは、建設や都市計画、エネルギーに関するプロジェクトで5年ほど取材や調査を重ね、その後は独立して環境ジャーナリストとして情報発信を続けました。そしてインターネットが普及したことで、自身のウェブサイトで記事を掲載するようになり、講演会や本の出版といった活動もするようになりました。 

2008年には、ドイツ・フライブルク市のヴォーバン住宅地をモデルとし、日本において「持続可能な低炭素型のまちづくり」を目指す、一般社団法人クラブヴォーバンを設立。日本全国の自治体向けに、再生可能エネルギーや脱炭素の取り組み、持続可能なまちづくり等に関するセミナーを定期的に開催しています。そうした支援を行っている9つの自治体の中の1つが、ニセコ町でした。

株式会社ニセコまちの中心メンバーに

2018年に、ニセコ町は国から「SDGs未来都市」に認定されました。株式会社ニセコまちは、そのモデル事業である「NISEKO生活・モデル地区」の計画を実現するため、ニセコ町や地域事業者、クラブヴォーバンの共同出資により、2020年に設立されました。村上さんは現在、(株)ニセコまちの中心メンバーとして、ニセコ町で持続可能なまちづくりの取り組みを進めています。

村上さんがニセコまちの中で担う役割は大きく分けて2つ。ひとつは、街区の整備を行っていくにあたって、インフラや土木、建築などを総合的にコーディネートしていくこと。もうひとつは、ニセコ町の新しい住まいと暮らしのモデルを構築していく中で、エネルギー面でのコンセプトを作り出すこと。低炭素型の街区のモデルを、将来的に町内外に広げていくための土台づくりをしています。

走り抜けてきた日々を振り返る

街区事業の立ち上げの頃から、長きにわたって携わってこられた村上さん。今の率直なお気持ちを聞いてみました。

「この街区事業が始まってから今年で5年目になりますが、立ち上げ時と比べて社会状況がかなり変わってきています。リゾートエリアでの開発がどんどんと進む中で、地域の住民の方からはソフト面での開発が求められています。また、エネルギー価格や建設・建築にかかる費用は高騰していますが、その一方でニセコ町民の給与水準が比例して高くなってはいないという状況もあります。これからの脱炭素の暮らしを実現していくうえで、建設の際にはさまざまなエネルギー対策が必要になるわけですが、そうした対策を取ろうとすればするほど初期投資の価格があがって、地域住民の方々が手が出しにくくなってしまっていることを、とても心苦しく感じています。」

こうした厳しい社会状況に直面する一方で、ニセコまちの会社がチームとして段々と形になっていることに喜びも感じているそう。

「ニセコまちに好意を持ってくれたり、街区に住みたいと思ってくれるニセコ町民の方々が増えてきていて嬉しいです。元々大きな資本を持っていたわけじゃないから、小さな取り組みが形になってきているんだなと思います。組織をつくったばかりの頃と比べると、今は形だけでなく、本当の意味での組織になりつつあると思います。『チーム』という言葉の方が近いかな。それぞれのメンバーが自分の役割を認識し、担当し、互いに信頼関係を持ちながらチームとして動くようになってきました。『自分の時間やお金を投資して形にしよう』と心に決めてくれた人たちが集まって、それがチームになっていくっていうのは、簡単なことではないですよね。」 

また、これからの「ニセコまち」というチームについて、こう続けます。

「良いまちをつくろうとする会社が、良いチームじゃなかったらダメだと思うんですよね。僕は、一番は子供たちのために、未来のためにと思ってこの取り組みをやっていて、子供たちの笑い声が絶えないような住宅地になってほしいと思ってます。それをつくり上げていくニセコまちの社内が明るく、楽しい雰囲気じゃなかったら、良いまちは作れないですよね。」

まちづくりへの思いと、これからのニセコまち

これまで長い年月をかけてこの事業に携わってこられた村上さん。活動する中で原動力になっているものについて尋ねました。

「一にも二にも責任感でやってますね。この事業に関わっている人たちや応援してくれる人たちからの期待に応えたいし、大切な土地を譲ってくれた地主さんに対する誠実な思いもあります。ニセコで暮らして地域の人たちと関わる中で、いい人たちがたくさんいるなと感じていて、そういう人たちのためにも良いまちを作っていきたいです。」

と、優しい表情で穏やかに答えてくれました。最後に、今後の意気込みについて聞いてみました。

「会社の立ち上げの時は売上がないから、すごく馬力が必要でした。自分で事業を立ち上げた経験のある人たちが集まっていたので、これまでになんとか形にすることができました。しかし、近い将来には、一度会社が動き始めると、今度は色んなタイプの人が必要になってきます。これからは、年齢層が若い人や女性、地域の人たちが活躍できるような会社になっていかなければいけないと思っています。自分の役割はいつか終わりますから。そういう人たちにバトンタッチしていけたらと思ってます。」 

0から1を生み出し、その成長を見続けてきた村上さん。言葉の一つひとつから、子どもを育て見守る親のようなあたたかい思いと、さまざまな課題や困難を乗り越えてきたことによる説得力や深みを感じます。

「これまでの5年間は、準備する5年間だったように思います。来年から住宅が建築されて、実際に人が住み始めますが、最初にしっかりまちの雰囲気づくりをして、盛り上げていきたいですね。この街区の理念に共感してくれるような方が住んでくれたら嬉しいです。建物をつくることだけが仕事じゃないから。これから新しい町内会という地域コミュニティもつくって、ソフトボール大会で他の地区に勝っていかなきゃいけないしね(笑)この『ニセコミライ』の地区が、どんな雰囲気になっていくのか楽しみですよね。」

大きな仕事を担いながらも、日頃から地域の人たちとの交流を大切にし、小さなことや地道な作業も率先して取り組まれている村上さん。多忙な日々を送る中でも、一つひとつの仕事に真摯に取り組まれ、いつも笑顔と周囲の人への気配りを忘れない村上さんだからこそ、地域の人たちから愛され、信頼され、そしてそれがニセコまちへの応援に繋がっているのでしょうね。

プロフィール
Photo:佐々木 綾香

(株)ニセコまち 取締役 /(一社)クラブヴォーバン 代表

村上 敦

岐阜県出身。現在ドイツとニセコの二拠点で活動中。環境ジャーナリスト・コンサルタント。日本で土木工学部、ゼネコン勤務を経て、環境問題を意識し、ドイツ・フライブルクへ留学。フライブルク地方役場(ブライスガウ・ホッホシュバルツバルト郡)建設局に勤務の後、2002年から独立し、ドイツの環境政策、都市政策、エネルギー政策などを日本に紹介する。多様なメディアへの寄稿と企画協力、環境関連の調査、自治体/企業へのコンサルティング、講演活動を続ける。南ドイツの自治体や環境関連の専門家、研究所、NPOなどとのネットワークも厚い。 

文責:

大澤 瑠奈・佐々木 綾香

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