明日をつくる教室

枝葉を広げ、まっすぐに伸びる ー木を愛し森を育む、とある青年のお話ー

ニセコ高校 緑地観光課 農業科学コース

/

堀 稜輔

取材日 9月 18日

Photo:佐々木 綾香

もしかしたら、これを読んでいるあなたも耳にしたことがあるかも… ?巷で話題の高校生、その名も堀稜輔(ほり りょうすけ)さん。現在ニセコ高校に在学する堀さんは、緑地観光科農業科学コースの3年生。地域の人たちから「堀くん」と呼ばれ親しまれている彼には、「このために生きている!」と言っても過言ではない、大好きなものがあります。

それは、「木」。

木を愛する堀くんは、実家の耕作放棄地での森づくりに熱中しています。堀くんが木に興味を持つようになったきっかけや、森づくりの楽しさ、自分の「好き」を探求する中で得たものなど、木と共に生きる堀くんの人生にクローズアップしてお話をうかがいました。

(※ 以下、地域の人たちから親しみを持って呼ばれている「堀くん」という呼称表記で統一しています)

木への情熱の芽生え

生まれも育ちもニセコ町の堀くんは、ニセコ小学校・ニセコ中学校を卒業し、現在ニセコ高校に在学する、生粋のニセコ人。そんな堀くん、小学校低学年の頃は、「こんな田舎早く出たい!」と思っていたのだそう。その当時、鉄道に熱中していたこともあり、都会に行ってオシャレな電車を間近で見ていたいと思っていました。

月日が経ち、堀くんが小学校5年生の頃。木や森に興味を持つことに繋がる大きな転機がありました。それは、毎年ニセコ小学校で行われていた、黒松内町での「ブナの森自然学校」という宿泊体験学習。使われなくなった学校を再利用し、さまざまな体験活動を通じて森や川、海を知ろう!というコンセプトとなっています。

「色々な体験活動の中で、ブナの森での体験が一番楽しかったです。森の中で人工林と天然林の違いを学んだり、ブナの木をみんなで手を繋いで囲んで太さを考えてみたりと、実際に森の中でクイズを出してもらいながら、木や森のことを学びました。また野鳥を観察したり、木の実を食べてみたり、そうした体験を通じて木や森に興味を持つようになりました。」

当時の思い出を楽しそうに語る堀くんの顔はとてもイキイキしています。

 ▲ 木や森の話をしている時の堀くんはとても楽しそう!

自宅の庭での初めての植樹

堀くんが木に興味を持つようになって約1年、小学校6年生の頃に、堀くんが実際に木を育て森づくりを始めるきっかけになった出来事がありました。

「僕のおばあちゃんが当時、川原種苗さん(森づくりや景観のための様々な樹種の苗木を生産するニセコ町の種苗会社)で仕事をしていて、おばあちゃんが『孫が木が好きだ』と社長の川原さんに話をしたら、カラマツの苗をくれたんです。その時はじめて、川原さんと間接的に知り合いました。その後どんどん木を植えることにハマって、これまでに60種類くらいの木を実家の耕作放棄地に植えました。」

▲ 育てている木をリストアップして必要な作業を確認します

堀くんが高校1年生の時の秋に、初めて自ら川原社長に連絡を取りました。川原さんは堀くんのおばあちゃんが自分(堀くん)の話をした時のことを覚えてくれていたそうです。子ども時代に自分が興味関心を深めるきっかけを作ってくれた川原さん。大人になってこうして改めて繋がることができたというお話を聞いて、とてもあたたかい気持ちになりました。

▲ 川原社長からいただいたカラマツ(写真中央の木)
苗を植えてから今年で6年目。高さは5mほどに成長しました!

森づくりに魅せられて

これまでたくさんの木を植えてきた堀くん。そんな堀くんに森づくりの魅力を聞いてみました。

「『森をつくる』というのは、自分にとっては、音楽を演奏したり、絵を描くみたいな感覚かなと思います。例えば音楽だったら、リズムとメロディーとハーモニーの3つの構成要素がありますよね。絵だったら、背景の絵を重ねていったりとか、色々な要素を組み合わせて一つの作品ができあがります。森をつくることも、それに似ているのかなと。」

自分が考える森づくりの魅力について、とても興味深い表現で説明してくれる堀くん。さらに詳しく聞いていきます。

「例えば、モミジがそこにあったとしたら、それが生えるように周囲にシラカバを植えてみたりします。歌のある楽曲は、歌っている人が目立つけど、それはベースやドラムなどがあるから引き立つと思うんです。森も一緒で、シラカバがあるからモミジやどんぐりの木が引き立つ。桜がたくさん立ち並ぶ桜並木もきれいだなって思いますけど、たくさんの桜がある中で1本の桜を見ても、ちょっと感動が薄いですよね。だけど、山の中で咲く1本の桜は美しさが際立ちます。」

▲ 木のお世話をする堀くん

「色んな個性が集まってひとつの森になる。それが森をつくる楽しさや魅力だと思います。将来はもっと広大な土地で森づくりをやってみたいなと思ってますが、まずは家の周りに理想の森をつくりたいと思ってます。植えさせてもらえてることに感謝ですね(笑)」

豊かな感受性を持ち、自分の思いや考えをはっきりと言葉にして伝えられる堀くんには、とても驚かされます。また堀くんの言葉の一つひとつから、謙虚な姿勢と周囲の人たちへの感謝の気持ちが伝わってきます。

自分の「好き」を深める中で得たもの

木を研究したり森づくりに励む中で、堀くん自身や周りの人との交流にさまざまな変化がありました。

「5年前の自分はこの木が分からなかったけど、今の自分は分かる!って気づいた時に、新しい知識を得て自分は成長したんだなって思います。それから、木を育てている中で、動物や植物、キノコの様な、木を取り巻く様々なものに興味を持つようになりました。」

▲ 木をはじめとする色々な分野の自然環境について勉強中!

自分の興味関心を深めていく中で、様々な人たちとの出会いもあります。

「ニセコ中学校の生徒だった時に、とある地元の生産者さんが講演で学校に来てくれたことがありました。その方のお話に感銘を受けて、その後自分からその生産者さんに連絡を取って親しくなりました。すると、その方からニセコ町の林家さんを紹介していただいたりと、地域の方との繋がりがどんどん広がっていきました。初めてお話しする人に電話をかけるのはすごく緊張したし、時間がかかりました。でも自分自身で開拓していかなければいけないと思ったんです。」

初めて話す人、しかもその相手が年の離れた大人であれば、連絡を取る時はすごく緊張するし、勇気もいることでしょう。好きなことを突き詰めたいという堀くんの思いの強さと、真っ直ぐに行動するたくましさ、そしてそれを快く迎え入れる地域の人たちのあたたかさを感じます。

▲ ニセコ町内で開催された森づくりに関するイベントにも参加

我が道をゆく若者のこれから

自分の「好き」を探求し、自分の世界を自分自身で広げてきた堀くん。そんな彼に、これからやっていきたいことを聞いてみました。

「今の目標としては、木育マイスターの資格を取りたいと思ってます。木の魅力を色んな人に伝えていきたいし、自分も木のことをずっと好きでいたい。自分の森を完成させて、それをさらに広げていけたらと思ってます。」

▲ 堀くんが育てているカラコギカエデの木

森林や自然などのガイドの仕事にも興味があるという堀くん。自然を楽しむうえで、何か皆さんに伝えたいことはありますか?と聞きました。

「身近な自然に目を向けてみると、意外と色々な発見があったりするんです。普段気にも止めていなかったような雑草が、とても綺麗な花を咲かせることもあって。そういう視点で自然と触れ合ってみると楽しいんじゃないかなと思います。」

そう語る堀くんには、すでにガイドの顔が見え隠れしていました。

自分の好きなことを真っ直ぐに貫き、さまざまな人と関わり合いながら、新しい世界を開拓してきた堀くん。その姿はまるで、暖かい光を浴びながら、強く真っ直ぐに育とうとする若い木のようでした。これから様々な環境での学びや発見、色々な人との関わりを通じて、どのような木に成長していくのか、そして堀くんの人生がどのような森になっていくのかー。堀くんの今後の活躍がとても楽しみですね。

▲ ミズキの木とのツーショット!

プロフィール
Photo:佐々木 綾香

ニセコ高校 緑地観光課 農業科学コース

堀 稜輔

ニセコ町富川出身。地元ニセコの小中学校を卒業後、ニセコ高校に入学、現在同校に在学中。小学生の時に体験した宿泊体験学習を機に、木や森に興味を持つようになり、実家の耕作放棄地を使った森づくりに熱中している。地域のさまざまなイベントに参加し、多様な年代・バックグラウンドを持つ人たちと積極的に交流を行っている。

文責:

佐々木 綾香

インタビュー一覧
お問い合わせ