明日をつくる教室

交流のハブとなる駅前温泉

綺羅乃湯 支配人

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小貫 理

取材日 10月 12日

Photo:高橋 達朗

ニセコ町に暮らす誰もが知っている綺羅乃湯。そのオープン時の一員であり、現在の支配人である小貫理(おぬき おさむ)さんにニセコの今昔を伺いました。

◆スポーツ万能な小学生、簿記のプロに

ニセコ町に生まれ、ニセコ町で育ち、小学生の時には野球、サッカー、陸上、柔道、冬はクロカンとアルペンもやっていたというスポーツ万能な小貫さん。部活後に、ニセコ小学校の前にあった駄菓子屋さんに立ち寄ることを楽しみにしていました。うまい棒がほぼ全種類あったようで、毎日行きたくなるのが分かります。月・水・金が野球で、火・木・土がサッカー、友達に誘われて柔道をやり、陸上の試合があると出場し、後志管内の100mリレーで優勝経験があります。

最近は、公園で遊んでいる子どもたちが少なくなったと感じています。小貫さんが子どもの頃は消防署前のスペースで野球やサッカーをやっていたとのこと。熱中しすぎて、誤ってガラスを割ってしまったりしたこともあったようですが、一生懸命遊んだことが、今の発想力につながっていると感じる場面がいくつもありました。

中学生頃までは、ニセコ大橋や橋の手前の信号もなく、ニセコ駅に向かって下る道路だけで、スキー場に行く時にも一度下がって線路を渡っていたそうです。中学2年の時に後志管内の野球大会で優勝し、小樽との代表決定戦をニセコ町の球場でやったことがあり、1-0で負けて全道大会には出場できなかったものの、今でもその時の仲間とは交流があり、良い思い出となっています。

(甲子園出場記念のボールや甲子園の砂を見せていただきました。)

中学時代の先輩が所属する高校野球部が甲子園に行ったり(アルプススタンドで映っていた)、一つ上の先輩が春の甲子園大会に出場しベスト4に入ったりしているといいます。

最近では2019年夏の甲子園大会(101回目大会)でベンチ入りしたニセコ町出身の選手がいて、甲子園の土をお土産にもらったそうです。立派な球場があったり、地域対抗戦があったり、学校を卒業しても野球好きの交流があったりとニセコ町の野球風土を知ることができます。観光に来ただけでは分からない、街の素敵なアピールポイントになっているように感じます。

高校では野球に熱中していましたが、進学した札幌では、年上の学生と一緒にいる環境もあり、勉強に集中しました。簿記を学び、電卓の検定で1級を取るほどに勉強しました。現在では、決算対応の中で会計士が楽をできるほどに整理が行われています。

◆札幌のホテルからニセコ綺羅乃湯へ

卒業後は札幌のホテルに就職し、フロント業務や経理業務に携わっていました。札幌生活も嫌いではありませんでしたが、水が全然違うし、人の多さもあって、ニセコがいいなと思っていた4年目の頃、綺羅乃湯が出来ることを知り、地元で何かしら役に立てればとの想いから応募しました。最初はボイラーやポンプなど温泉の機械について学びながら施設管理の仕事を覚える毎日でした。

(複数ある配管の系統。系統の把握は温泉の運用に欠かせません。)

その後、経理の仕事を任されるようになりましたが、機械に異常が出ると、夜間や休日でも電話がかかってくるため、対応方法を伝えたり、現場に行って操作したりと温泉施設全体の管理・運用を行っています。

(ボイラーやポンプの状態確認・制御を行う設備。効率的な運用には日々の管理が大切。)

◆綺羅乃湯とイベントへの想い

綺羅乃湯が位置するニセコ駅前では、夏も冬も様々なイベントが開催されています。「ハロウィンイベントや冬の花火・雪像展示などは、周りの方に声をかけられたことをきっかけに始まっています。やり始めるとすごく大変なんです。でもハロウィンのカボチャや冬の雪像の前で写真を撮ってくれている様子を見るとすごく嬉しくなります。」

綺羅乃湯が作られたきっかけは、ニセコ大橋の完成によって、駅前の交通量が激減したことにあります。以前はニセコエクスプレスが何本も走り、札幌からのスキー客を乗せてニセコ駅に停まり、駅前からスキーバスに乗っていく流れがありました。車社会となり鉄道の本数も少なくなっていき、橋の完成によって人の流れが変わっていきました。そこで、駅前のシンボルとして、町民の憩いの場として作られたのが綺羅乃湯でした小貫さんは、その設立時の意思をつなげていこうとしているように感じます。

ハロウィンカボチャのイベントは、オレンジ色だし、賑わい感が出るのではないかと農家の方から声をかけられたことがきっかけとなっています。カボチャを作るから飾ってみないかと言ってくれる農家さん、共感し町内会に働きかける小貫さん、自分たちの暮らす街が好きで、交流があるからこそできるのかもしれません。

(鮮やかなオレンジと引き締まったブラックにかわいいイラストのコラボレーション)

20年近く続くハロウィンカボチャのイベントは、最初は1軒ごとに、民家の玄関先にカボチャを置いていくことから始めていきました。気づくとカボチャにサザエさんやドラえもんの絵を書く人が現れはじめ話題となり、「かぼちゃ落書きコンテストを開催しよう、次はランタンを作ってロウソクを灯すべ」となっていきました。イベントが盛り上がっていくのと同時に小貫さんの仕事は増えていくのですが、「大変だけど、写真を撮ってくれる人を見たり、町内会や協力隊と交流ができるのは、やっぱり楽しい。これだけつながって大きくなってきているので、良かったなと思っている。」と暖かい想いがあります。

シーニックナイト(冬の花火・雪像展示)も20年くらいになるとのこと。支笏湖・洞爺・ニセコを繋ぐルートとして設定された道路があり、それぞれの街でろうそくの灯りをつけて楽しもうという趣旨で、綺羅乃湯でやらないかと誘われたことがきっかけとなっています。当初は駐車場や道路にできる雪の壁に穴をあけてろうそくを入れただけでしたが、次第に凝り始めるようになり、ニセコ町の建設業協会の協力も受けて重機を使っていろいろなことにチャレンジするようになっていきます。

「こうやったら面白いんじゃないかという話がどんどんと沸き起こり、文字を掘ったり、滑り台を作ったり、色を組み合わせて氷柱のライトアップを考えたりしてね。すべり台は、雪が降ったら除雪が必要だから、ほぼ毎朝子ども達が来る前に除雪して、坂をならしてという作業から始まる。文字のデザインも毎年変えていて、CADで設計図を書いてプロジェクターで映しながら掘っていくんだよ。」

(二人で座れるようにしたハートの雪像。輪の中から駅が見えるようにバランスにこだわったそう。)

「教会の雪像を作った時は、これから結婚する二人の結婚式リハーサルみたいなこともやったな。俺(小貫さん)の結婚式で使ったろうそくを使ったんだよ」

素敵な二人の写真などを見せてくれながらとても楽しそうな小貫さん。写真を撮ってくれているのを見ていると嬉しくなるという気持ちが伝わってきました。

(小貫さんのパソコンの背景画像となっている「NISEKO」の文字。毎日見ながらイメージしているとのこと。)

2012年からは冬の花火も開催しています。コロナ過では開催して良いものか考えたこともあったそうですが、駅前周辺の方達が「今年もやるの?」と楽しみにしてくれていて、夏の運動公園での花火を見に行けない人たちにも楽しんでほしいという想いで続けているといいます。

◆あたたかい雰囲気の駅前温泉

今年で22周年となる綺羅乃湯、源泉が砂利の駐車場の下にあり、循環利用とコージェネレーション利用で、出来る限り環境に優しく運用されています。

(週末には予約で埋まるという家族風呂。1回毎にお湯を張り替えています。)

最近ではロウリュウ(サウナ)や、家族風呂利用のお客様が増えてきています。ニセコ町で作られているアロマオイルを利用したり、家族風呂のシャワーヘッドを話題の製品にしたりと工夫されています。大勢が利用し水を使う設備は維持管理が大変だと言われますが、「清潔感があるお風呂にしたい」という想いで、綺羅乃湯メンバー全員が対応しているといいます。綺羅乃湯の皆さんやメンテナンスに来ている方とのやり取りを見ていると「あとで寄ってね」と暖かい雰囲気に包まれています。

駅前だけではなく、ニセコ町の様々な活動のハブとなっている小貫さん、そして綺羅乃湯。これからも楽しいアイデアの受け皿となり、発信拠点となっていってくれると思います。

プロフィール
Photo:高橋 達朗

綺羅乃湯 支配人

小貫 理

ニセコ町出身。高校までをニセコ町で過ごし、卒業後は札幌のホテルに就職。フロント業務や経理の仕事に携わる。ニセコ町の入浴施設である綺羅乃湯の設立をきっかけにニセコ町に戻り、同所で勤め始める。施設運営にかかるさまざまな業務を日々行いながら、地域を盛り上げていくために、綺羅乃湯周辺でさまざまなイベントを企画・開催。地元の人々と協力しながら、地域内外の人に喜ばれるような場を提供している。

文責:

高橋 達朗

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